台湾で増加中のブックカフェとは?人気の秘密と経営の裏側に迫る【台湾ってこんなトコVol.3】

台湾をはじめ12カ国・地域から現地発のアジア経済ニュースを日本語で配信しているニュースメディア「NNA」。この連載では、NNA台湾の記者が台湾の暮らしや文化、習慣など、現地ならではの情報をお届けします。
(毎月1回更新)
台北市を走る鉄道、台北捷運(台北MRT)の中山駅。
周辺は百貨店や多くの飲食店があり、大勢の若者らが訪れるにぎやかな場所ですが、大手書店とは異なる個性を重視した「独立書店」と呼ばれる書店も多く営業しています。
その数10店余り。最近オープンした店もあれば、約20年の歴史を持つ店もあります。
台湾でも「読書離れ」が指摘される中、どうしてこんなに多くの書店が営業しているのでしょうか。連載の第3回は台湾の書店事情をお伝えします!
カフェスペースでゆったり過ごせる路地裏の書店「奎府聚」


▲中山駅近くにある書店「奎府聚」。台湾の歴史などを紹介した書籍が豊富で、日本人観光客も多く訪れているそう=9月14日(NNA撮影)
中山駅から歩いて約5分。周辺に美容院や古着店などが並ぶ路地裏にある書店「奎府聚」を訪れました。
今年6月にオープンしたばかりのお店に入ると、書籍を並べた机の向こうにカフェカウンターがあるのが目に入りました。


▲奎府聚の店内。奥にはカフェカウンターやテーブルなどを備えています=9月14日(NNA撮影)
そのそばには、いすとテーブルのセットがいくつかあり、注文したコーヒーなどをその場で飲めるようになっていました。
カフェラテを注文し、購入した本を読んでいると、時間がゆったりと流れているような感じがして、リラックスできました。
隣を見ると、持ち込んだノートパソコンで作業をしている人もいて、店での過ごし方は人によって異なるようです。
台湾で増加中のブックカフェ。背景にはやむを得ない事情も…?
台湾ではいま、書店にカフェを併設した「ブックカフェ」が増えています。
本とコーヒーを一つの店で楽しめるのはとても魅力的ですが、経営者に話を聞くと、その背景にはやむを得ない事情があることも分かりました。
「ここ数年は書籍の販売だけでは経営を続けていくのが難しくなっています。その他の収入源を見つけなければ、書店の運営を続けていけないのが現状です」
台中で独立書店「辺譜書店」を経営する廖英良さんはこう話します。


▲台中の独立書店「辺譜書店」は1階と2階にカフェスペースを設けています。買わなくてもいすに座って本を読むことができます=9月11日(NNA撮影)
独立書店の経営者らが立ち上げたNPO台湾独立書店文化協会の理事長も務める廖さんによると、2017年の調査で台湾全土には800店余りの書店があり、うち600店余りが独立書店でした。ただ、これら独立書店の売上高は台湾出版業の1%にも満たないといいます。


▲ネット書店や大型書店では本が割り引き販売されています=9月24日(NNA撮影)
台湾ではネット書店や大型書店による書籍の割り引き販売が行われています。書籍の販売で得られる利益が少ない中、価格競争も加わり、独立書店は極めて大きな圧力に直面しています。
独立書店経営の根底にあるのは情熱
廖さんは、多くの独立書店の経営者は利益を追求しておらず、経営の根底にあるのは情熱だと分析しています。
「読書離れが指摘されているからこそ、書店の存在が必要とされています」と思いを語ってくれました。
カフェ、アートスペース…。収入の多様化図る書店も
経営を安定させるため、収入の多様化を図っている書店もあります。
台北市中山区で2003年から営業する「田園城市生活風格書店」はその一つです。


▲「田園城市生活風格書店」は、書棚には野菜などを入れるかごをコンセプトに特注したものを使っています。陳炳シン社長(シン=木へんに參)によると、20年使っても壊れないそう=9月13日(NNA撮影)
店内は「青果市場」をコンセプトにデザイン。
店内にはカフェスペースだけでなく、1階と地下1階にはアートスペースも設けています。展覧会を年間平均約20回開催しているそうです。


▲田園城市生活風格書店はアートスペースも備えています=9月14日(NNA撮影)
逆風に負けず新店舗をオープンさせる書店も
新型コロナウイルスの感染が広がり、小売業に強い逆風が吹いていた期間に、新たに二つの書店をオープンさせた経営者もいます。台北市の「浮光書店」店主の陳正菁さんです。


▲浮光書店の外観=9月14日(NNA撮影)
浮光書店のオープンは17年。「最初は台北で注目される書店を開きたかっただけでしたが、台湾はコーヒー好きな人が多いことから、カフェを併設することにしました」と振り返ります。
しかし、コロナ禍に直面し、人と安全な距離を保つことが求められるようになると、消費者はネットを利用して書籍を購入することが習慣になったと陳正菁さんは語ります。
「リアルの書店はどんな書籍を選び、どこでどのような経営をするのか。これらはブランドのイメージに関係します」と指摘します。


▲陳正菁さんが経営する「浮光」「春秋」「風景」の3書店は書籍の販売スペースとカフェスペースが半々になっています=9月22日(NNA撮影)
20年には同書店の近くで新たに「春秋書店」をオープンしました。春秋書店では書籍を販売するだけでなく、文化活動なども行っています。これまでに展覧会や講演会などを開催したそう。店舗賃料が高騰する中、収入源を多様化させることで、安定した経営を目指しています。
もう一つの店舗は「風景書店」で、台北市内の「国家戯劇院」の中にオープンしました。陳正菁さんは「ブックカフェは交流や討論、対話をする場所。書店がこうした機能を備えたことに意義があります」と強調しました。


▲台北市内の「国家戯劇院」の中にオープンした風景書店=9月24日(NNA撮影)
冒頭で紹介した「奎府聚」の陳怡静さんも「書籍とコーヒー、社交的な集まりができるサロン。この三つは奎府聚の大事な要素です」と話します。
陳怡静さんは、本の販売が難しい中でも台湾の独立書店は将来にわたって増えていくと予測しています。「情報が氾濫する時代にあって、独立書店の存在はより見直されると思います」と語りました。



