人吉温泉発祥の宿「旅館 翠嵐楼(すいらんろう)」水害乗り越え、和モダンな宿に全面リニューアル【くまもと温泉物語】
熊本の温泉ソムリエ・第一号の「ぴちこ」が熊本県内の温泉宿にまつわる、歴史や人、風景、食など、訪ねた人にしか感じられない魅力を発信します!
明治43年創業、「翠嵐楼」は人吉温泉発祥の宿として長く人気観光地を支えていました。
しかし、時代に沿うべく事業改善を考えていた矢先に「令和2年豪雨災害」に襲われます。長い休業後、全面リニューアルを経て2023年2月にオープンした宿は、和モダンで洗練された雰囲気に生まれ変わっていました。
歴史や災害からの復興、新たな魅力まで、「翠嵐楼」の物語をご紹介します。
明治43年創業。時代を越えても変わらない源泉かけ流しの湯が、人々を魅了する
人吉温泉の中心部から車で約6分。「翠嵐楼」は、客室の全てから球磨川を臨むリバービューと3つの温泉が自慢の温泉宿です。
第一号源泉「御影の湯」が湧出し、明治43年に創業した「翠嵐楼」は、人吉温泉発祥の宿として温泉地の発展に尽力しました。
4代目で代表の川野 精一さんに当時の様子を聞くと、「創業者の川野 廉(きよし)がとにかく人脈が広く、宿名を当時の内閣総理大臣・桂 太郎氏につけていただいたり、知人たちが都心部から多く訪れていたりと、とても賑わっていたようです」と教えてくれました。
その後、第二号源泉・第三号源泉を掘ったり、増築して客室数を増やしたりと、1つの宿で湯巡りができる温泉自慢の宿に進化していきます。
業務改善の最中に襲った豪雨災害
「賑わっていたと言っても、昭和に建てられた宿です。次第に時代とのギャップも生まれ、業務改善を図ろうと動いていました。3年で改善するぞ!と目標を掲げた2年目、設備面の改善に着手しようとしていた矢先の豪雨災害でした」(川野 精一さん)
「水害の経験はこれまで8回もあり、幼い頃には2階から船で避難をしたこともあった」という川野さん。
水害への免疫もあり、球磨川沿いには堤防ができ、床上を上げるなど建物の対策もとっていただけに、今回の最大2.3メートルの床上浸水は想定をはるかに越えていたそうです。
「上の階へお客さまを誘導し終わった後、パソコンを取りに事務所へ戻ると膝くらいの水嵩が一気に胸まで上がってきて驚きましたが、何とか避難できました」。
「温泉はパイプに泥が詰まってしまいました。温泉は止めると死ぬ、と言われていたので、どうにか動かし続けなければ!と焦りました」(精一さん)。
ピンチをチャンスに変える!
泥のかき出しや、洗浄、ポンプの修理などを懸命に行い、災害から約1カ月後の8月1日に温泉が通った際には、スタッフみんなで喜びを共感したと話します。
「当時は壊滅的な状況でしたが、小さな喜びが幸せで、楽しみでしたね」と川野さん。
久しぶりに旅館の湯船にお湯を溜めて入った時は、普段はお客さま優先で浴場に入ることのない夕日どき。
はじめて夕日を眺めながら入った温泉に感動したそうです。
業務改善を行っている最中での災害。
「ピンチをチャンスに変えなければ!」と、昭和から令和への転身をテーマにコンサルの方などと相談しながら全面リニューアルへ向け計画を進めました。
「周りの方々からの情報のおかげで、課題が次第にはっきりと見えてきました。助けていただいた人たちには感謝しています」(精一さん)
昭和から令和への転身。サステナブルを実現し、未来に続く温泉旅館へ
全面リニューアルした新生「翠嵐楼」。コンクリート3階建ての本館は全て表層を張り替え和モダンな雰囲気に。
食事処は建て替えることで、プライベートを重視した空間に生まれ変わりました。
さらに、配管や電気配線、さらにこれまで一括管理だったエアコンを客室ごとに設定できるように一新したことで、エコロジーで時代にあったサステナブルな宿になることもできたそうです。
温泉が自慢の宿から、さらに、そこで過ごす時間の満足度もアップしました。
普段はやさしく穏やかな表情を魅せる球磨川。客室の窓から、その景色を眺めていると、心も穏やかになっていきます。
さらに、リニューアルを機に新たにイタリアンレストラン「トラットリア ヴェルデ」もオープン。
こちらは、一般客の利用も可能で、地元食材を使ったピッツァやパスタ、イタリアの生ビール「ペローニ」が味わえます。夕食後にバーとして利用するのもおすすめです。
泉質が異なる3つの源泉からなる温泉
3つの源泉を持つ温泉はそれぞれ泉質が異なり、中でも、サウナや露天風呂を備える男女別の大浴場「翠山」「翠河」は、「ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩温泉」というW美肌の湯。
湯上がりのさっぱり&しっとりとした肌を実感するはずです。
泊まらないと楽しめない、人吉・球磨愛100%の食事
建て直された食事処は、プライベートを大切に、程よい目隠しとゆったりと席が配された造りに。
料理長を務めるのは精一さんの弟さん・川野 主悦(ちから)さんです。幼い頃から厨房を手伝い、大阪・京都・東京で腕を磨き、32歳で帰郷したと言います。
「さまざまな生産者さんと知り合う中で、故郷の食材の素晴らしさに気づき、伝えていきたいと思うようになりました」と主悦さん。
地元の生産者と繋がり、「人吉・球磨」の宝を料理に昇華しています。
地元愛あふれる料理の中には、焼き・揚げるなどシンプルに素材のおいしさを感じるものも多く、直前まで元気に泳いでいた川魚など、どれも人吉を訪れないと味わえない料理ばかりです。
また、品数豊富な朝食も人気が高く、中でも料理長おすすめなのが卵かけご飯。
人吉のブランドたまご「球磨球子(くまたまご)」と削りたてのかつおぶしを使ったもので、ふわふわのかつおぶしに半熟の温泉卵と宿オリジナルの「温泉しょうゆ」が絶妙。
ご飯は自家製米を使用するこだわり。クセになる一杯です。
1/fのゆらぎを楽しむチルタイム
夕食を終えて、夜のお楽しみも用意されています。
焚き火スペース「星のテラス」では、満点の星空と共に焚き火を楽しんだり、バイオエタノール暖炉を設けてあるロビーやラグーで炎のゆらめきを感じながら過ごすことができたりと、癒やしの時間になるでしょう。
炎のゆらぎに癒やされたり、3つの温泉を湯巡りしたり……。1泊2日では満喫できないほどの魅力が詰まった温泉旅館です。
最後に、代表の川野 精一さんにこれからについて伺いました。
水害当時は、支援してもらうことが不甲斐ないと思ったこともありました。
現在は、当たり前が当たり前でなく、毎日が大事だということを胸に前に進んでいます。
災害から4年たちますが、鉄道の復旧や治水の完成には10年はかかると思っています。
宿の再開後、小さなお子さん連れのご夫婦など、新しいお客様にも来ていただいています。
観光を地域産業として認められ、人吉の観光業界を牽引できるよう、水害前以上に輝き続ける存在でいたいと思っています。
泉質名:弱アルカリ性単純温泉
源泉温度:43.6℃
加水・加温なし、源泉かけ流し
泉質名:ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩温泉
源泉温度:55.5℃
加水・加温なし、源泉かけ流し
泉質名:弱アルカリ性単純温泉
源泉温度:48.5℃
加水・加温なし、源泉かけ流し
人吉温泉 旅館 翠嵐楼
住所 | 人吉市温泉町2461-1 |
---|---|
TEL | 0966-23-2361 |
Webサイト | https://www.suiranrou.jp |
営業時間 | 日帰り入浴11時〜13時半、チェックイン15時/チェックアウト10時、イタリアンレストラン19時〜23時(オーダーストップ22時半) |
休業日 | 不定休 |
駐車場 | 複数あり |