脳腫瘍|診断や治療の技術が大きく進歩

診断や治療の技術が大きく進歩 脳腫瘍

その名前から全て「がん」と思われがちな「脳腫瘍」。しかし、そうではありません。良性と悪性がある「脳腫瘍」とはどんな病気なのか、その種類や特徴、治療などについてお伝えします。

(=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

執筆者

熊本大学病院 脳神経外科 教授 武笠 晃丈さん
熊本大学病院 脳神経外科 教授
武笠 晃丈さん
  • 日本脳神経外科学会専門医
  • 日本がん治療認定医機構認定医
  • 日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
  • 臨床遺伝専門医
目次

はじめに

いざという時のために「脳腫瘍」を知りましょう

「脳腫瘍」と聞くと、重い病気を連想されるかもしれません。その治療となると、不安や恐怖を感じる方は少なくないでしょう。確かに脳の中に腫瘍ができるというのは深刻なことです。しかし、全ての脳腫瘍が命に直結するわけではありません。

一口に脳腫瘍と言っても、その種類や性質はさまざまです。最近では画像診断や治療技術の進歩によって脳腫瘍と診断された後、適切な対応がなされ元気に過ごしている方が多くなってきました。
いざという時のために、まずは脳腫瘍を知ることから始めましょう。

脳腫瘍とは

脳やその周囲にできる腫瘍 発生部位などで多くの種類

脳腫瘍とは、脳やその周囲にできる腫瘍(細胞が増殖してできた組織の塊)の総称です。図1のように、いくつかの種類があり、その性格は発生する部位や由来する細胞によって大きく異なります。

例えば脳を覆う膜からできる髄膜腫や、神経の鞘(さや)から生じる神経鞘腫(しょうしゅ)は多くが良性で、ゆっくりと成長します。また、ホルモンの分泌に関係する下垂体神経内分泌腫瘍(下垂体腺腫)も良性腫瘍ですが、視力視野障害や、種々のホルモン異常により全身に症状が及ぶことがあります。

一方、脳の働きを担う神経細胞を支えるグリア細胞からできる神経膠腫(こうしゅ)(グリオーマ)には悪性度の高いタイプが多く、再発や進行に注意が必要です。特に悪性度の高い神経膠腫は膠芽腫(グリオブラストーマ)とも呼ばれます。

近年では、脳内に発生する悪性リンパ腫(中枢神経原発悪性リンパ腫)も増加傾向にあります。
それぞれの発症頻度は図2のようになっています。

[図1]脳腫瘍の種類

髄膜腫は脳を覆う膜に発生、神経膠腫(グリオーマ)と悪性リンパ腫は脳の中に発生、神経鞘腫は脳神経に発生、下垂体神経内分泌腫瘍/腺腫は下垂体に発生

[図2]原発性脳腫瘍の頻度

髄膜腫は41%、下垂体神経内分泌腫瘍は17%、グリオーマは16%、神経鞘腫は9%、悪性リンパ腫は4%、頭蓋咽頭腫は1%、胚細胞性腫瘍は0.8%、胎児性腫瘍は0.3%、その他は8.5%、不詳は2.5%

熊本県脳腫瘍疫学調査(1989-2024)より
熊本大学病院脳神経外科 篠島直樹先生作成を一部改変

症状

腫瘍の場所で異なるサイン 強い頭痛や吐き気などに注意

脳腫瘍の症状は、できた部位によって異なります。

「片側の手足が動かしにくい」「歩いた時にふらつく」「言葉が出にくい」「物が見にくい」「音が聞こえにくい」―など、日常の小さな変化がサインになることもあります。また、大人になって初めてけいれん発作を起こした場合も、脳腫瘍が隠れている可能性があり注意が必要です。

頭痛はありふれた症状ですが、特に朝方に強い頭痛や吐き気を感じる場合は、脳腫瘍が大きくなることによる頭蓋内圧の上昇を反映していることがあるため、症状が続く際は早めの受診をお勧めします。

診断

MRIやCT、PETなど駆使 精密な画像により正確性が向上

診断にはMRIが欠かせません。高精細な画像により数ミリ単位の腫瘍も描出でき、造影剤を用いると、腫瘍の性質や血流の状態を詳しく調べることができます。これらの情報は、手術の方針を立てる上でも重要です。

この他にも、腫瘍の種類に合わせて、CT、PET、脳血管撮影などを組み合わせて行うことで、診断の正確性を上げ、最も適した治療方針を立てることができます。

治療

種類により手術、薬物療法も

脳腫瘍の全てに治療が必要なわけではありません。髄膜腫などの良性の脳腫瘍では、人によってはほとんど大きくならない場合もあります。

また、下垂体神経内分泌腫瘍(下垂体腺腫)の中には、飲み薬で治療可能なものもあります。治療を受けるかどうか、担当の医師やその他の医療従事者、家族などとよく相談して決めることが大事です。

腫瘍が徐々に大きくなり、症状が出てきた場合や、悪性腫瘍が疑われる場合の多くは、何らかの治療が必要になります。

進化する外科手術

腫瘍をできるだけ安全に取り除く外科手術は、極めて重要な治療法の一つです。現在では、コンピューターを用いて医師に脳神経や腫瘍の位置を示す「ナビゲーションシステム」や、手術中に神経や脳の電気信号を測定し、機能が正常に保たれているかを確認する「電気生理学的モニタリング」を行うことで、重要な神経を守りながら正確に摘出することが可能になってきました。

傷を小さくして入院期間を短くする低侵襲手術も増えています。例えば、以前は大きく頭蓋骨を開けて行う必要があった手術の一部は、神経内視鏡を使って負担を軽くして行うことができるようになりました。これにより、高齢の方でも以前より安全に手術を受けられるようになってきました。

放射線治療なども活用

全摘出が難しい脳腫瘍には、高精度の放射線照射や定位的放射線治療(ガンマナイフ・サイバーナイフ=図3=など)によって、腫瘍の増大を抑えることができます。

神経膠腫や悪性リンパ腫では、外科手術に加え、放射線治療や薬物療法(化学療法・分子標的療法)などを組み合わせて治療を行います。

腫瘍細胞の遺伝子異常のタイプに応じた個別化治療が、脳腫瘍でもできるようになってきています。

[図3]サイバーナイフ照射イメージ

サイバーナイフ照射イメージ

治療後

定期検査と生活支援が大切

たとえ良性腫瘍であっても、手術後は再発がないか定期的なMRI検査によるフォローアップを行います。

障害による何らかの体の不自由がある場合は、リハビリテーションや社会復帰の支援も必要です。近年は、職場復帰や自動車の運転再開など、患者さんの生活の質を重視した支援体制が整いつつあります。

おわりに

いつもと違う不調なら 脳神経外科で一度検査を

脳腫瘍は決して珍しい病気ではありません。がんの脳転移を除いても(つまり原発性脳腫瘍だけでも)、国内で年間およそ3万人が新たに脳腫瘍と診断されています。

いつもと違う頭痛やふらつき、言葉や手足の不調などを感じたら、「年齢のせい」「疲れのせい」と思って放置せず、一度脳神経外科で検査を受けてください。早期に見つけて適切に治療することが、将来の健康を守る最も確かな一歩となります。

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