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熊本地震から8年 改めて考えたい 災害時の医療

熊本地震から8年。時とともに忘れがちな備えや心構えを、元日に起きた能登半島地震で再認識した人も多かったのではないでしょうか。今回は、災害時の医療体制について熊本大学病院災害医療教育研究センターの笠岡俊志センター長に話を聞きました。

(取材・文=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

話を聞いたのは

熊本大学病院災害医療教育研究センター 教授・センター長 医学博士 笠岡 俊志さん

熊本大学病院災害医療教育研究センター 教授・センター長 医学博士
笠岡 俊志さん

  • 日本救急医学会救急科専門医・指導医
  • 社会医学系指導医・専門医(災害医学)
  • 日本集中治療医学会集中治療専門医
  • 災害派遣医療チーム(DMAT)隊員
  • 熊本県災害医療コーディネーター など
目次

はじめに

災害時の医療体制整備 阪神・淡路大震災がきっかけ

災害はいつどこで起きるか分かりません。ひとたび災害に見舞われると多くの負傷者が発生し、重篤な救急患者の搬送が必要になります。医療は被災したからといって止められないどころか、急激に需要が高まります。一方で、施設の損壊や停電、断水などの状態に陥り、病院の機能は低下します。そのために患者を受け入れられなくなるなど、医療の需給バランスが大きく崩れてしまいます。

災害時の医療体制整備の必要性が強く認識されたのは、1995年の阪神・淡路大震災がきっかけです。医療機関が災害を想定した準備をする、災害時に患者受け入れが可能な病院を各地域に確保するなど、体制構築が進められました。

現在も、災害の種類や地域の特性などの諸課題が検討され、体制充実が図られています。

医療機関の備え

「災害拠点病院」 県内では15カ所指定

各都道府県には「災害拠点病院」が指定されています。原則として各都道府県に「基幹災害拠点病院」と、※二次医療圏に「地域災害拠点病院」をそれぞれ1カ所ずつ設置することになっています。

※二次医療圏
救急医療を含む一般的な入院治療が完結するように設定した区域。複数の市区町村で構成される。

災害拠点病院は、24時間緊急対応し、災害発生時に被災地内の傷病者などの受け入れ・搬出を行う体制や、災害派遣医療チーム(DMAT)の派遣体制を保持するなど、多くの指定要件を満たすことが求められます。

熊本県では現在、15の病院が指定されています(図)。

(図)県内の災害拠点病院

基幹災害拠点病院

(1)熊本赤十字病院

地域災害拠点病院

(2)国立病院機構 熊本医療センター

(3)済生会熊本病院

(4)荒尾市立有明医療センター

(5)くまもと県北病院(玉名市)

(6)山鹿市民医療センター

(7)熊本セントラル病院(菊陽町)

(8)阿蘇医療センター

(9)矢部広域病院

(10)宇城総合病院

(11)熊本労災病院(八代市)

(12)人吉医療センター

(13)国保水俣市立 総合医療センター

(14)上天草総合病院

(15)天草中央総合病院

MEMO:DMAT(ディーマット)とは

専門的な研修・訓練を受け、災害急性期に活動できる機動性を持った「災害派遣医療チーム」の呼称。Disaster Medical Assistance Team の頭文字を取っています。医師、看護師、業務調整員が1チームを構成。熊本では災害拠点病院と熊本大学病院の16の指定医療機関に整備されています。

能登半島地震の支援(石川県穴水町)に向かった熊大病院DMAT隊員(右端が笠岡俊志センター長)
能登半島地震の支援(石川県穴水町)に向かった熊大病院DMAT隊員(右端が笠岡俊志センター長)

医療継続のための計画・準備

災害拠点病院だけでなく多くの医療機関が災害時にどうすべきかのマニュアルやBCP(事業継続計画=Business Continuity Planning)を策定しています。メディカルのMを取ってMCPとも呼ばれます。

マニュアルや計画を作って終わりではなく、実際に準備・実践することが大事です。例えば熊本大学病院では、停電に備えて自家発電機を設置。その発電機を動かすための燃料を備蓄しています。断水のリスクに対しては、地下水をくみ上げ浄水する装置を備えて使用しています。

各医療機関では、立地する場所によって想定される被害が異なるため、それぞれが持つ課題に沿った準備が求められます。

災害医療の人材養成

多職種連携がテーマ 医療従事者向けに講座

災害時の医療を充実させるため普段からできることに人材の養成があります。熊本大学病院では熊本地震の経験を災害医療に生かすため、2018年10月に「災害医療教育研究センター」を新設。災害医療に従事する人材の養成とともに、行政や地域医療との連携、市民への防災教育などを行っています。

「多職種連携の災害支援を担う高度医療人養成」をテーマにした社会人対象のプログラムでは、医師・歯科医師コースと医療系専門職コースを設け、2年間で120時間学びます(eラーニング含む)。2019年度にスタートし、各年度25人の受け入れ目標に対し毎回大きく上回る希望者が県内外から集まり、これまでに200人を超える医療従事者が受講しています。

私たちにできること

地域の災害リスクを知ろう

災害時に自分の命を守るための第一歩は、自分の住む地域にどんな災害リスクがあるかを知ることです。そのために自治体が作っている※ハザードマップを活用。洪水や土砂災害など、自分が住む地域のリスクを具体的に知って対策を考えましょう。お住まいの自治体やインターネットなどで得られる情報を参考に、家族や地域の人たちといざという時にどう行動するかを話し合っておくことをおすすめします。

※ハザードマップ
自然災害におけるリスクや避難場所、緊急時の連絡先などを地図に表したもの。熊本市では、市のホームページで公開している。

被災後の健康障害を防ぐ

被災後の関連死を防ぐために重要なこととして

  1. 必要な薬を中断しない
  2. 口腔ケアを怠らない
  3. 睡眠を十分に取る

―などが挙げられます。

持病のある人は、お薬手帳を普段使うバッグに入れておけば非常時にすぐに持ち出せるのでおすすめです。ただ、持ち出せない場合に備えて普段飲んでいる薬の名称や何のために服用しているのかを覚えておきましょう。迅速に適切な薬を処方してもらうのに役立ちます。

避難袋に歯ブラシは入っているでしょうか。今は断水しても使える口腔ケアグッズもあります。誤嚥性(ごえんせい)肺炎を防ぐためにも口腔ケアを怠らないようにしましょう。

避難所であってもしっかり眠ることが重要です。最近普及している段ボールベッドを活用するなど、避難所の皆さんで協力してより良い睡眠環境を整えるようにしましょう。

笠岡先生からのアドバイス

「トイレ」は待ったなし! 必ず準備を

被災時の備えとして、水や食料がすぐ浮かぶと思いますが、忘れてならないのが「トイレ」です。

水や食料は少々我慢できても、排せつをこらえることはできません。排せつを無理に我慢したり、回数を減らすために飲水飲食を控えたりすれば、健康障害に直結します。

排せつ物を固めてゴミとして捨てられる製品などを必ず準備しておきましょう。

おわりに

命を助ける 「自助」「共助」

災害時によく聞く「自助・共助・公助」。発災時、まずは自ら逃げる「自助」。そして皆で助け合う「共助」。これによって多くの命が助かります。やや遅れて力を発揮するのが、自治体や国が行う支援である「公助」といえます。

「自助」の意識を持ち、地域ごとに避難所での避難生活訓練を実践するなど、「共助」を高める活動を行い、もしもの時に備えるようにしたいものです。

次回予告

5/24号では、「子どもの視力」についてお伝えします

記事内の情報は掲載当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。

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この記事を書いた人

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