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早期発見の重要性と最新の治療 胃がんの基礎知識

早期発見の重要性と最新の治療 胃がんの基礎知識

ピロリ菌が「胃がん」の原因になることが知られ、予防のための検査や除菌治療が一般的になってきました。しかし、それでもまだ胃がんに罹患(りかん)する人は多い状況です。今回は「がんを知ろう」シリーズとして、“胃がんの基礎知識”をお伝えします。

(編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

執筆者

熊本大学病院 消化器内科 助教 宮本 英明さん 医学博士
熊本大学病院 消化器内科
助教 宮本 英明さん
医学博士
  • 日本内科学会総合内科専門医・指導医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・九州支部評議員・学術評議員・社団評議員
  • 日本消化器病学会専門医・指導医・九州支部評議員
  • がん薬物療法専門医・指導医
  • 日本肝臓学会専門医
目次

はじめに

内側の粘膜から発生し、進行するがん

胃は食べ物を蓄え、消化し、腸に送る大切な臓器です。

胃の壁は5つの層からできており、がんは必ず一番内側の粘膜から発生します。

がんが粘膜とそのすぐ下の層(粘膜下層)にとどまっているものを「早期がん」、それより深く広がったものを「進行がん」と呼びます(図1)。

進行すると、リンパ節や他の臓器に転移することがあります。

図1

がんが粘膜とそのすぐ下の層(粘膜下層)にとどまっているものを「早期がん」、それより深く広がったものを「進行がん」と呼びます

胃がんの現状

患者数は減っても3番目に多いがん

最新のデータでは、日本において胃がんは、大腸がん、肺がんに次いで3番目に多いがんです。しかし、以前より患者数は減少しています。

これは、胃がんの主な原因であるピロリ菌の感染が減ったためです。ピロリ菌は主に飲み水や食べ物から感染しますが、上下水道の整備により感染率が下がりました。

ピロリ菌を除菌することで胃がんのリスクを減らすことはできますが、完全にゼロにはなりません。そのため、除菌後も定期的な内視鏡検査が必要です。

また、喫煙や塩分の取り過ぎ、野菜・果物不足も胃がんのリスクを高める要因です。最近では、ピロリ菌が関係しない胃がんも増えてきています。

喫煙や塩分の取り過ぎ、野菜・果物不足も胃がんのリスクを高める要因

早期発見に向けて

自覚症状が出る前に検診で発見を

胃がんの症状には、胃痛、吐き気、黒色便、体重減少などがありますが、早期にはほとんど症状がありません。

症状が出た時点では既に進行していることが多いため、定期的な検診が大切です。

検診の目的は、自覚症状が出る前に根治可能な段階で胃がんを発見することです。

熊本市では、がん検診として40歳以上の方に胃部エックス線検査(バリウム検査)、50歳以上の方に胃内視鏡検査(胃カメラ)を行っています。バリウム検査に比べ、胃カメラは早期発見に適しています。

治療

身体にやさしい内視鏡治療

早期に発見された場合、内視鏡で切除することができます(内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD=図2)。

内視鏡治療の対象になるかどうかは、がんの大きさや深さなどを考慮して決定します。

内視鏡治療では、口から内視鏡を入れてがんとその周囲の粘膜を切除します。全身麻酔は不要で、おなかを切らずに済むため身体への負担が少なく、治療前とほぼ同じ生活を送ることができます。

図2 内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD

内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD

腹腔鏡手術やロボット支援手術も

内視鏡切除の対象にならない場合でも、身体への負担が少ない腹腔鏡手術やロボット支援手術という選択肢があります。

腹腔鏡手術は、お腹に数センチの小さな穴を開けて、そこから専用のカメラや器具を入れて行う方法で
す。一方、ロボット支援手術は、医師がロボットアームを操作して精密な手術を行います(図3)。

これらの手術は、開腹手術に比べて傷が小さいため、手術による身体への負担が少なく、術後の回復も早いことが特徴です。

図3 ロボット支援手術イメージ

ロボット支援手術イメージ

抗がん剤での治療や免疫療法

がんが切除できない場合には、抗がん剤治療が行われます。外来での治療が中心で、副作用を抑えて生活の質(QOL)を保ちながら、がんの進行を抑えることを目指します。現在、胃がんに対して保険診療でさまざまな抗がん剤を使用することが可能です。

また、2017年からがん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)の薬が保険診療で使用可能になりました。

免疫チェックポイント阻害薬はいろいろながんに使用されていますが、自己免疫疾患のような副作用が生じることがあり、熊大病院では対策チームを結成し、複数の診療科が協力して対応しています。

治療の選択肢広がる「ゲノム検査」

標準的な抗がん剤治療の効果が見込まれなくなった患者さんに対して、2019年から「がんゲノム検査」が保険適用となりました。

この検査では、がんの組織や血液を用いて、数百種類の遺伝子変異を調べます。見られた遺伝子変異に基づき、それぞれの患者さんに最適な治療薬を提供する「個別化医療」を行います。検査結果によっては、使用できる抗がん剤の選択肢が広がったり、新薬の臨床試験に参加できる可能性が生まれたりします(図4)。

すべての患者さんが治療に結びつくわけではなく、現在は10人に1人程度ですが、今後さらに多くの患者さんに治療の選択肢が提供されることが期待されています。

図4 これからのがんゲノム医療

これからのがんゲノム医療

おわりに

定期的に検診を受けましょう

胃がんは怖い病気ですが、転移がない早期の段階で発見し適切な治療を受ければ、多くの人が治癒(ちゆ)できます。

早期発見のために、定期的に検診を受けましょう。ピロリ菌に感染していた場合には除菌し、胃がんのリスクを減らしましょう。

次回予告

1/24号では、「悪性リンパ腫」についてお伝えします

記事内の情報は掲載当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。

早期発見の重要性と最新の治療 胃がんの基礎知識

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この記事を書いた人

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