新たな治療法が次々に登場 悪性リンパ腫
血液のがんである「悪性リンパ腫」は、他の臓器に発生するがんに比べて聞きなじみがないかもしれません。今回は「がんを知ろう」シリーズとして、増加傾向にあるという悪性リンパ腫についてお伝えします。
(編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)
執筆者
- 日本血液学会評議員
- 日本癌学会評議員
- 日本HTLV-1学会評議員
- 日本内科学会認定内科医
- 日本内科学会総合内科専門医
- 日本血液学会認定血液専門医
- 日本血液学会認定血液指導医
はじめに
血液のがんの一種 リンパ球が悪性化した疾患
悪性リンパ腫は血液のがんの一種で、白血球の中の一つであるリンパ球が悪性化して発症する病気です。
多くの場合は、リンパ節と呼ばれるリンパ球が集まる組織が腫瘍化して発症します。リンパ節は免疫をつかさどる器官の一つで、全身に広がるリンパ管の途中にあり、約600個のリンパ節が体全体に配置されています(図1)。従って、悪性リンパ腫は体のどの部位にも起こり得ます。
組織検査によって多くの病型(種類)に分類されるためしばしば診断が難しく、読者の皆さんにとっても捉えどころのない病気かもしれません。
わが国で増加傾向にある病気ですが、治療法の進歩が目覚ましく、従来の抗がん剤に加えて、新たな免疫療法、遺伝子療法が次々に登場しています。
図1 主なリンパ節の分布と名称
悪性リンパ腫とは
年間約3万5千人が発症
日本では年間約3万5千人の方が悪性リンパ腫を発症しており、人口10万人当たりの発症者数は、1985年が5.5人、95年が8.9人、2005年が13.3人、20年が28.5人と年々増加しています。
男性にやや多く、70〜80歳台に発症のピークがありますが、若い人に多いタイプもあります。
リンパ球はその働きからBリンパ球、Tリンパ球に大まかに分けられ、どちらのリンパ球が悪性化したかにより、病型が異なります。加えて、組織(病理)検査での特徴によって、さらに細かく分類されます。
数十種類に及ぶ病型の分類
世界保健機構(WHO)の診断基準では、悪性リンパ腫の分類は数十種類に及び、治療方針を決定するためには、これらのどの病型に当てはまるかを慎重に診断する必要があります。
図2に、その分類を大まかに示しています。まず、ホジキンリンパ腫〈約10%〉と非ホジキンリンパ腫〈約90%〉に分かれます。さらに、非ホジキンリンパ腫は、B細胞リンパ腫〈70%〉、T細胞リンパ腫〈25%〉とその他に分けられます。※〈 〉は日本での患者の割合
図2 悪性リンパ腫の種類と日本における割合
B細胞リンパ腫の中で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と呼ばれる病型が最も多く、リンパ腫全体の約30%を占めます。世界的に見て、わが国ではT細胞リンパ腫が多いのが特徴ですが、これはヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLVー1)というウイルスによって発症する成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の患者さんが多いことに由来しています。
症状と診断
腫瘍の場所により異なる症状
リンパ節は体中の至る所に存在するため、リンパ腫もあらゆる場所に起こります。体表に近い場所では首の周り(頸部(けいぶ))、脇の下(腋窩(えきか))、足の付け根(鼠径(そけい))のリンパ節が触れやすく、これらの場所の腫瘤(しゅりゅう)に気付くことがあります。
感染症など炎症によるリンパ節腫大は触ると痛みがあるのに対し、悪性リンパ腫の場合は痛みがないことが多いとされています。
また、リンパ節以外に、胃や腸などの消化管、皮膚、脳や脊髄などの中枢神経に発生することもあり、複数の場所に腫瘍が存在することも少なくありません。
腫瘍が発生した場所によるさまざまな症状(例えば消化管であれば腹痛、呼吸器であれば咳(せき)や呼吸困難、中枢神経であれば意識障害など)が認められ、発熱、体重減少、大量の寝汗は発生した場所に関わらず共通して出現することがあります。
一般的検査に加え病理検査が原則
検査としては一般的な採血、ウイルス検査(HTLVー1やEBウイルスはリンパ腫の原因となり、B型肝炎ウイルスなどは治療を行う上で留意すべきウイルスです)、検尿の他、腫瘍の場所・数・範囲などをはっきりさせるための画像検査(CTスキャン、MRI、PET検査など)を行います。
消化管の悪性リンパ腫を疑う場合には、胃カメラや大腸カメラで腫瘍の有無を検査します。
悪性リンパ腫の診断には、病理検査を行うことが原則であり、治療を受ける前に適切な病変部位から生検という組織検査を行う必要があります。病理医が顕微鏡で腫瘍組織の観察を行い、前述の数十種類にも及ぶ悪性リンパ腫の診断を行います。
治療
化学療法や抗体療法、放射線治療も
悪性リンパ腫の治療方針・治療薬は、その病型やステージ(病気の程度)によって異なりますが、多くの場合、複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法が行われます。また、がん化したB細胞やT細胞を攻撃する抗体療法が行われ、抗がん剤と一緒に投与されることもあります。リンパ腫の場所が1カ所に限られている場合には放射線治療も選択肢の一つとなります。
いずれの治療も複数回繰り返して行う必要があり、外来で治療可能な場合もあります。
最も多い悪性リンパ腫であるDLBCLは治療が効きやすく、約7割の方がこれらの治療で治癒します。
造血幹細胞の移植も選択肢に
これらの治療を行っても効果がないケースを「難治性」、いったん腫瘍が消えた後に再び出現することを「再発」と呼び、最初に使用された抗がん剤とは異なる薬剤を用いた治療を行う必要があります。
状況によっては、血液の元になる造血幹細胞の移植も選択肢となり、患者さん自身の造血幹細胞を移植する場合を自家移植、ドナーさんからの細胞を移植する場合を同種移植といいます。
免疫療法が再発・難治性にも効果
最近、2つの新しい免疫療法が登場しました(図3)。
一つは「キメラ抗原受容体T細胞(CARーT)療法」と呼ばれ、患者さんの正常のリンパ球を体外に取り出して遺伝子操作を行い、再び体内に戻すという方法です。遺伝子操作を行ったリンパ球がリンパ腫細胞を攻撃します。
もう一つは「二重特異性抗体療法」と呼ばれ、患者さんの体内で、正常リンパ球をリンパ腫細胞に引き寄せて攻撃させるというものです。
いずれの方法も患者さんの正常リンパ球を利用した免疫療法で、再発・難治性の患者さんの4~5割の方に効果が期待できるようになりました。
図3 新しい免疫療法:CAR-T療法と二重特異性抗体療法
おわりに
悪性リンパ腫をはじめ、血液がんの治療は急速に進歩しています。
これまで抗がん剤の多くは点滴薬が中心でしたが、最近は内服薬も続々と登場しています。また、吐き気や白血球減少などの副作用を軽減する治療も進歩しており、外来で行える治療も増えてきています。将来的には遺伝子検査の結果に基づいた新たな治療法の開発も期待されています。
次回予告
2/28号では、「膵臓(すいぞう)がん」についてお伝えします