今年も来るぞ! 酷暑の夏 熱中症を防ごう

昨年、一昨年は日本全体で観測史上最も暑い夏でした。今年もやってくる盛夏を前に、「熱中症」対策は欠かせません。今回は、熱中症の予防や対処などを熊本大学病院救急部助教の田中拓道さんに聞きました。
(取材・文=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)
話を聞いたのは


田中 拓道さん
- 日本救急医学会救急科専門医
- 日本DMAT隊員
- 熊本市地域災害医療コーディネーター
はじめに
熱中症対策は社会の課題
日本救急医学会は2024年、9年ぶりに「熱中症」の診療指針を改訂し、これまで「1度=軽症」「2度=中等症」「3度=重症」と3つに分類していた重症度に、最重症群の「4度」を新たに設けました。背景には、23 年の全国の熱中症搬送者数が9万1000人を超え、年間1000人以上の死亡者(24年は2033人)が出る状況が続いていることがあります。
重症例の中でさらに注意を要する最重症群を「4度」とし、適切な治療を早急に開始することを提唱しています。
また厚生労働省は、職場における熱中症対策を強化する改正労働安全衛生規則を6月1日から施行しています。
これらは、熱中症対策が社会的に大きな課題であることを示しています。
熱中症の症状
頭痛や吐き気、意識障害も
「熱中症」は、暑さ(高温多湿)によって体内に熱がこもって引き起こされる健康障害を指します。代表的な症状として、比較的軽度では目まいや立ちくらみ、こむら返りなど。中等度では、頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)、倦怠(けんたい)感など。重度になると、意識障害やけいれんなどが現れます。
熱中症の症状が現れたら、涼しい場所で休ませて水分や塩分を補給する、医療機関を受診する、救急車を呼ぶ―など必要な対応を迅速に行うことが大切です。
[注意!]軽症であっても、こんなときには受診を
- 症状が長引く
- 本人は「大丈夫」と言っていたが、急にしゃべらなくなった
といったときには受診しましょう。
幼児や高齢者は特に注意
自分の症状を明確に伝えられない幼児や、不調を自覚しにくい高齢者は特に注意が必要です。
子どもは身長が低い分、大人より地面からの照り返しの影響を大きく受けます。普段と表情が違う、ご飯を食べない、お茶やジュースを受け付けないなどがあれば受診しましょう。
高齢者は定まった症状が出にくく、訴えが明確でないこともあります。症状が軽度でも救急車を呼ぶことをお勧めします。早期に対処することが重症化を防ぎます。


対処と治療
居合わせた人がまず行動
熱中症が疑われる人と居合わせたら、以下の行動をお願いします。
- 意識がはっきりしており、自分で水分摂取ができるようなら、涼しいところで休ませて水分を取ってもらい、様子を見てください。
- 右記の対応をしても症状が改善しなければ、最寄りの病院を受診させてください。
- 「立って歩けない」「呼びかけへの反応が鈍い」「皮膚を触って明らかに熱い」場合はすぐに救急車を呼んでください。


体温を下げ、水分補給
治療の基本は、体を冷やして体温を下げる体温管理と安静、十分な水分・塩分補給です。水分を口から取ることが難しい場合は点滴を行い、回復を図ります。
重症、さらには深部(直腸内)体温が40℃以上の最重症になると、腎臓や肝臓、時には脳にダメージが及んでいる場合があります。内臓の不具合が同時多発的に起こると命に関わります。集中治療室での治療を含め1~2週間の入院加療が必要になります。
熱中症は「治療を受けたらすぐ治る」というものではないと心得ておいてください。その日に点滴などの治療を受けて自宅に戻れても、しばらく症状が残ることがあります。特に高齢者では、それが長引いたり、以前と同じように暮らすのが難しくなったりすることも。それらを防ぐためにも予防が重要です。


[注意!]症状が遅れて現れることも
時間差で熱中症の症状が現れるケースもあります。暑い環境下に身を置いた当日は特に不調を感じなかったのに、翌日や2日後に頭痛や倦怠感、食欲の低下などが起きた場合は受診をお勧めします。


予防のポイント
熱中症は生活環境や行動に気を付ければ防ぐことができます。ポイントを紹介します。
汗をかける体に
本格的な夏が来る前に、暑さに体を慣らす準備をしましょう。日常生活の中でできる軽い運動や入浴など無理のない範囲で汗をかくことが大切です。これを「暑熱順化」といいます。


屋内外で暑さを避ける
暑い時間帯に屋外に出ないように心掛けるのはもちろん、屋内でも快適な気温・湿度を保ちましょう。通気性の良い服を選び、外出時には帽子や日傘を忘れずに。


喉が渇く前に水分摂取を
「喉が渇く」のは脱水のサインです。渇きを感じる前に、ひと口かふた口でいいので、小まめに水分摂取しましょう。アルコールは水分摂取になりませんのでご注意を。
三食しっかり食事を取ろう
成人に必要な水分は1日2Lといわれています。普通に3回食事を取れば、そのうち半分の1Lは摂取できます。しっかり食事を取ることが脱水予防にもなるのです。


水分摂取の注意点
- 心臓や腎臓などの疾患では1日の水分量に制限値が設けられている場合があります。主治医に摂取量を相談してください。
- 食事以外で1日1Lが目安ですが、特に汗をかいた日などはプラスアルファを意識しましょう。
- お茶には利尿作用がありますが、だからといって飲むのを控える必要はありません。その分少し多めに飲むようにしましょう。
- 水やお茶での水分摂取では塩分が不足します。あめやタブレットなどを上手に使って補いましょう。
休養、睡眠を十分に
日中に休憩を取ったり、よく眠れるような環境を整えたり、疲れた状態が継続しないようにしましょう。二日酔いなどの体調不良も熱中症を引き起こす要因になります。


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