【398号】カルチャールーム 第56回 – 円盤で時間旅行 嶋田宣明
雪深い極寒の世界を描く “冬歌の怨歌”
さて、今年も残すところあと半月あまり。毎年この時季、“耳タコのクリスマスソング”を避けて聴く冬の歌は、「北風ピューピュー」「岸壁に打ち寄せる荒波」がイメージされる“北の国の歌”。私ら九州の人間にとって冬は、「ももひき」、いやヒートなんとかの下着の上下で、寒さがしのげる程度のものですが、“北の国の歌”の描く冬は、雪深い極寒の世界。今回ご紹介する曲は、この“北の国の歌”の1曲、北原ミレイの「石狩挽歌」。
北原ミレイといえば「ざんげの値打ちもない」という阿久悠作詞の衝撃的な曲でデビューした怨歌(えんか)の女王。その後に「石狩挽歌」の詞を書いた、なかにし礼に出会う。この曲は、なかにし礼がニシン漁で一家離散したという自身の悲惨な経験を詞にした怨歌。詞の中にちりばめられた漁師言葉の「ゴメ(海猫)」「ツッポ(半天)」「ヤン衆(漁師)」 という言葉には、その当時の北の漁師の厳しい暮らしぶりが寒さと共によみがえってくるのです。この曲は大ヒットし、北原ミレイの名を一夜にして日本中に知らしめることとなりました。ただ残念なことに、これだけのヒットしながらも、彼女の紅白出場はかないませんでした。華やかなクリスマスの季節に、ひっそりと流れる“冬歌の怨歌”。シャンパンにケーキもいいけど、こんな曲をBGMに、熱かんと干物の冬もいいものですよ。
※今回紹介したレコードは12月19日(火)放送のFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(16時~18時55分)で放送する予定です。
しまだ・のぶあき/1951年生まれ、熊本市出身。東京のデザイン会社でコピーライターとして社会人デビュー。帰熊後、広告代理店でコピーライター&プランナーとして活躍。現在はFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(火曜・16時~18時55分)、RKKラジオ「昭和歌謡大作戦」(日曜・20時~20時55分)の選曲家、パーソナリティーを務め、幅広い年齢層に昭和の曲を届けている。