阿蘇内牧温泉「蘇山郷」|アクティブシニアとインバウンドに高付加価値を感じてもらうアイデアとは【熊本】
熊本の温泉ソムリエ・第一号の「ぴちこ」が熊本県内の温泉宿にまつわる、歴史や人、風景、食など、訪ねた人にしか感じられない魅力を発信します!
火の国・熊本のシンボルとして知られる阿蘇五岳。そのカルデラの中にあり、100年以上の歴史を持つ内牧温泉は、夏目漱石などの文豪も訪れた温泉地として、長く愛されています。
今回ご紹介する「阿蘇内牧温泉 蘇山郷(そざんきょう)」もその一つ。
与謝野鉄幹・晶子夫妻が訪れた温泉宿として有名な旅館です。
今やアクティブシニアとインバウンドに高付加価値を与える魅力的な旅館として、新しい歴史を刻んでいます。
3代目館主・永田祐介さんに進化を続ける宿の魅力を歴史を振り返りながら伺いました。
文豪が愛した、おもてなしの心
明治・大正・昭和と長く活躍した歌人・与謝野鉄幹と晶子夫妻が、「蘇山郷」を訪れたのは1932年(昭和7年)8月のこと。
当時はまだ温泉宿ではなかった永田家の邸宅に知り合いの紹介で夫妻が宿泊するということになり、慌てて工事をして完成させたのが現在も残る「杉の間」だったといいます。
「杉の間」は現在、見学のみ可能。部屋からは手入れの行き届いた庭園を眺めることができ、昭和初期以前の建築物に見られる窓ガラスのゆがみもそのままで、レトロな雰囲気です。
与謝野夫妻は、杉の間で過ごした時間やもてなしに感銘を受け、歌を残しています。
綾杉で作られた「杉の間」の床の間には、与謝野夫妻が滞在時に書いたという直筆の歌幅が掲げられています。
与謝野夫妻が訪れた時から21年後の1953年(昭和28年)、文豪ゆかりの温泉宿として「蘇山郷」は本格的な営業を始めます。
長年、和風温泉旅館として多くの旅人を癒していましたが、創業40年を越えた頃から次第に業績は右肩下がりになっていったそうです。
マイナスからのスタート。ピンチをチャンスに!
歴史のある宿の限界
3代目館主の永田さんは、元々は跡を継ぐか悩みながら箱根のホテルに勤務していたところ、「蘇山郷」の経営が厳しいことを知り、阿蘇に戻ることに。
そこで直面したのは「老舗宿の限界」でした。宿の歴史と良質な温泉、阿蘇ブランドという好条件に恵まれながらも、建物の劣化や時代のニーズとのギャップが原因だったと言います。
そこで、永田さんは経営学などを学び直し、業績の回復に努めます。
3度のピンチが思い切った決断のきっかけに
少しずつ経営改善する中で永田さんは2011年に3代目館主に。しかし、その翌年、2012年7月の九州北部豪雨で内牧全体が被害を受けました。
復旧のために永田さんがとった策はターゲットを明確にし、不備のあったハード面を一気に改善することでした。
「アクティブシニア層とインバウンドに絞り込みマーケティングしました。畳に座って食べる部屋食よりも、椅子・テーブルでの食事にニーズがあることが分かったので、レストランに個室を作り、部屋食サービスは辞めました」(永田さん)
さらに、客室にベッドやソファ、椅子・テーブルを配置し、シニア層が過ごしやすい環境も整備。
「昔ながらの旅館の雰囲気を求めて来られる海外からのお客様には和室をご案内するなど、時代のニーズを常に考えてきました」(永田さん)
2016年の熊本地震では、温泉が止まってしまったため再び採掘することに。3カ月の休業の後、イチ早く宿を再開したことで、大きな注目を集めました。
「その後は、JR豊肥本線が開通したと思ったらコロナ禍になって……。4年に1度は何かが起きる状況だったので辛かったですね」(永田さん)
コロナ禍は、宿のアップグレード期間
これまで度重なるピンチを乗り越えてきたこともあり、「コロナ禍は、コロナ明けにお客様を迎えるための準備期間」と考えた永田さん。
蘇山郷にアクティブシニア層やインバウンドが戻ってくることを予測し、エレベータを増設。高齢の方でも安心して利用できるよう、3階客室を畳敷きの部屋にベッドを設置する和洋スタイルに改装。
さらに、大広間をスイートルームにするなど、宿自体のグレードを上げるよう努めたそうです。
JRや国道が断絶されていても、わざわざ足を運びたくなる目的地になるためにと誕生したルーフトップバーも評判に。
「現在ある19部屋の中うち、9部屋がお風呂付きになっており、よりプライベートな空間で温泉を楽しんでいただけるようにしました。常に“お客様に快適に過ごしていただくためには何をすべきか”を考え取り組んでいます」(永田さん)
一歩先行く戦略は、他の宿の見本に
インバウンド受け入れや「泊食分離」をいち早く取り入れ、幾度のピンチも乗り越え、経営改善を実現した永田さん。
災害からの復旧・復興でも、宿だけでなく地域の活性化にもひと役買い、現在は「阿蘇市観光協会」の会長も務め、地域課題を解決するために奔走中です。
他にも、従業員満足の向上のため、宿泊業の働き方で当たり前になっている“中抜けシフト”の撤廃に取り組んでおり、ほぼ実現できているそうです。
※中抜けシフトとは…勤務時間の途中に、長時間の休憩があること
永田さんのこれらの手腕は各方面から注目を集め、今では県内外から講演依頼なども増えているそう。
まとめ:進化を続ける「蘇山郷」は、次の世代へ!
訪れるたびに、進化している「蘇山郷」。初代が自宅を改装してまでもてなした与謝野夫妻との物語をはじまりに、代々受け継がれる「おもてなしの心」が、この宿の最大の魅力です。
歴史を伝えつつ、お客様がより満足するための努力とチャレンジは、今後、永田さんの息子さんへと受け継がれていくそうです。まだまだ進化し続ける「蘇山郷」から目が離せません。
泉質名:ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-硫酸塩泉
源泉温度:45℃
加水なし・一部加温あり(冬期)、源泉かけ流し
阿蘇内牧温泉 蘇山郷
住所 | 熊本県阿蘇市内牧145 |
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TEL | 0967-32-0515 |
Webサイト | https://www.sozankyo.com |
営業時間 | 日帰り入浴13時〜15時、チェックイン15時、チェックアウト11時 |
休業日 | 不定休 ※休館日はHPをご確認ください |
駐車場 | あり |