子育てを通して思うこと【医療従事者によるリレーエッセー】
目次
慈愛の心 医心伝心 vol.130
やっと寝た…。生後数カ月のわが子の、今日何度目か分からない寝かしつけ。「どうかしばらく起きないで」と思いながら、あるお母さんからの電話を思い出す。
「上の子にぶつぶつができて受診させたいんですけど、下の子が今寝たばかりで。電話診療してもらえませんか」。当時の勤務先では遠隔診療は行っておらず、何より肌の症状とのことで誤診を防ぐためにも来院をお願いした。今もそう対応するだろうが、寝かしつけたばかりの時に外出しなければならなくなったお母さんの絶望感に、今ならもっと寄り添えたかもしれない。
小児科の受診の多くは流行する感染症に左右されるため、同じような症状での受診者が続くことはよくある。ただその背景にあるご家族の悩み・不安、事情はさまざま。また、受診するだけでもいろいろなハードルがある。予約時間通りに到着する大変さ、想像以上に長い待ち時間、トイレや授乳の問題、きょうだいの預け先やお迎えの時間、子どもの機嫌…。急な受診であればなおさらだ。本当はあれもこれも相談したいと思いながら、慌ただしさの中で抑え込んでしまう人もいるだろう。分かっていたようで、まだまだ想像力が足りていなかったと反省する。
子どもたちが健康に過ごすためには、ご家族が安心して子育てできることが大切だ。そのサポートも私たち小児科医の役割と考えている。自身が子育てを経験したことで、毎日育児に奮闘している皆さんにこれまで以上に敬意を表しながら、寄り添った診療ができたらと思う。