認知症の治療や予防、適切な関わり方を熊本大学病院の神経精神科助教が解説
加齢に伴う心配の一つに「認知症」の発症があるのではないでしょうか。そこで今回は、高齢での発症が多い認知症について熊本大学病院神経精神科助教・遊亀(ゆうき) 誠二さんに伝えてもらいました。
(編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)
認知症の基礎知識
認知症は超高齢者社会の身近な問題
令和7年のわが国の認知症推定患者数は675万人。全国の小学生数の600万人を超えてしまいます。超高齢社会は到来しており、私たちにとって認知症は切り離せない身近な問題です。
認知症とは「成熟したレベルに発達した精神機能が何らかの脳の器質的障害のため、病的に低下した状態」と定義されています。認知症は通常の老化でなく“病気”です。適切な治療や関わり方が必要です。
認知症を起こす疾患にはさまざまなものがあります。頻度の順に(1)アルツハイマー型認知症(2)脳血管性認知症(3)レビー小体型認知症があり、この3つで7割以上を占めるといわれます(図1)。高齢発症が多いこの3つの認知症について解説します。
[図1]認知症専門外来の認知症診断(令和2年、熊本大学病院神経精神科)
アルツハイマー型認知症
ゆっくり進行、10年ほどで重症期に
アルツハイマー型認知症は、認知症の原因では一番多く、認知症外来を受診される方の半分はこの病気です。進行はゆっくりで、在宅が難しくなる重症に至るまでに10年ほどかかります。
脳の奥、大脳辺縁系の海馬辺りから始まり(軽症期=発症から5年ほど)、大脳新皮質へ波及(中等症期=その後2~5年ほど)、新皮質運動野も含めた脳全域へ波及(重症期=さらにその後5年ほど)の3期に分かれると捉えられています(図2)。
海馬辺りで萎縮が始まるため、その部分の働きである近時記憶障害が初めに目立つ症状です。普通の老化でも近時記憶障害は見受けられますが、例えば週末レストランに出かけて、何を食べたか忘れるのは老化でもありますが、出かけたこと自体を忘れるのは認知症が疑われます。
中等症期では、電気機器が扱えない実行機能障害、計算障害や言いたい言葉が出てこない喚語困難、物の形を正確に把握できなくなる視覚構成障害などの認知機能障害が現れ、生活面での失敗が目立ってきます。
[図2]アルツハイマー型認知症の 進行-MRI画像
軽症期での治療開始を
軽症期に診断し治療を開始することで、進行を遅らせ、介護負担を軽減できる可能性が高くなります。
抗認知症薬の内服の継続により認知機能自体の改善や進行を遅らせることができます。また、生活の工夫で、さらに進行を緩やかに
することを目指します。
悪化させにくい生活態度は、
(1)日中はしっかり起きて夜間ぐっすり眠る生活リズムをなるだけ厳守する
(2)有酸素運動(散歩など)を毎日、1日40分ほどする
(3)頭のトレーニングとして最適な、人と会っておしゃべりする習慣を作る
(4)食事は薄味の和食を基本に、塩辛いものや油濃いもの、甘すぎるものなどはほどほどにする
の4つです。
脳血管性認知症
脳血管障害に伴って起こる認知症
脳血管障害では、脳の一部に血液が流れなくなって神経細胞が壊死に陥る「脳梗塞」や、血管が破綻する「脳出血」が起こります。
脳梗塞は全症例の7割を75歳以上が占めます。三大原因は、生活習慣病とされる「高血圧症」「高脂血症」「糖尿病」です。
脳は各部分で働きが異なり、脳血管障害が起きた場所で症状が異なります(意識障害、半身の運動障害や感覚障害、ろれつが回らない構音障害、ふらつき、けいれん、視野・視力障害、失語、頭痛など)。
脳血管障害の程度で後遺症が残ったりし、記憶や意識に関わる部位に障害が生じ、認知症となったものが「脳血管性認知症」です。
生活習慣病の予防を
三大原因にしっかりした内科管理を行うことが予防や悪化を防ぐ一番確かな方法です。飲酒や喫煙は、かかりつけの先生と相談しながら適正な量をたしなむようにしてください。
アルツハイマー型認知症での悪化予防の②と④は脳血管性認知症でもよく言われることです。
レビー小体型認知症
特徴的症状に幻視や手の震えなど
レビー小体型認知症は診断基準が出てまだ30年ほどの病気です。日本人が最初に報告した疾患ですが、経過や治療法など全体像がまだ明らかではありません。
高齢発症で、鮮明な幻視、パーキンソニズム(動作の緩慢さや手の震え、筋肉の強い緊張、身体のバランスが取りにくくなる姿勢反射障害)などが特徴的症状です。他にレム睡眠行動障害といって、はっきりした寝言や夢を見ながら体が動いたりすることが、若い頃からあったりします(図3)。意識レベルの波が生じやすく、認知機能は良かったり悪かったりと差が生じます。
生活リズムを保つことが重要
根本的な治療法はまだ見つかっていません。進行には個人差があり、5年ほどで歩行困難に至り、日常生活が困難になる方もいれば、10年近くあまり状態に変化なく過ごされる方もいます。
状態を維持するために、アルツハイマー型認知症の悪化を防ぐために紹介した①の、生活リズムをしっかり保つことが重要です。そのために薬を使って、日中覚醒度を増し、夜間睡眠を安定させたりもします。歩行ができる状態を保つため、筋肉トレーニングを勧めます。パーキンソニズムが強く出る方の場合は、精神科と神経内科の医師が一緒に経過を見ていくのが好ましいです。
[図3]レビー小体型認知症の特徴
【四大特徴】
◎認知機能の変動
◎はっきりした幻視
◎パーキンソニズム
◎レム睡眠行動障害
【その他の特徴】
◎抗精神病薬への過敏性
◎繰り返す転倒
◎失神、一過性の意識障害
◎自律神経障害(→便秘、起立性低血圧)
◎誤認妄想
おわりに
認知症サポート医に相談を
高齢者に多い3つの認知症を紹介しました。熊本県は認知症の診断を行える認知症サポート医が多い県です。県のホームページ(下記)にサポート医師が載っています。
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執筆者
熊本大学病院 神経精神科 助教
遊亀(ゆうき) 誠二さん
・精神保健指定医
・日本精神神経学会専門医・指導医
・日本老年精神医学会専門医・指導医
次回予告
9/22号では、「乳がん」についてお伝えします