不妊症の原因にもなる 子宮内膜症
女性の医療シリーズ(1)
11月と12月は「女性の医療シリーズ」として、女性特有の疾患や悩みを取り上げます。今回は、月経時の強い痛みなどで知られる月経困難症の原因にもなる「子宮内膜症」についてお伝えします。
(編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)
はじめに
女性の一生に関わることも
毎月の生理(月経)のときの強い痛みや吐き気、下痢、抑うつなどの症状「月経困難症」に悩まされている女性は、日本で約900万人といわれています。
月経困難症の原因の一つに「子宮内膜症」があります。子宮内膜症は痛みの原因のみならず、不妊症の原因にもなり、女性の一生に大きく関わるかもしれない疾患です。
ここでは子宮内膜症の診断や治療について解説します。
子宮内膜症とは
子宮以外にできる子宮内膜と似た組織
子宮の内側を覆う子宮内膜は、妊娠が成立しないと毎月出血とともに剝がれ落ちます。この子宮内膜と似た組織が骨盤の腹膜や卵巣など、子宮以外にできる病気が子宮内膜症です(図1)。
月経ごとに出血を繰り返し炎症が起き、次第に子宮の周囲が癒着して硬くなっていくほか、卵巣では血液がたまって嚢胞(のうほう)状になり、その性状から「チョコレート嚢胞」とも呼ばれます。チョコレート嚢胞の一部はがん化する可能性がありますので、産婦人科での定期的な診察が必要です。
下腹部痛や腰痛など日常生活に支障
子宮内膜症は月経を重ねるごとに進行して症状も強くなっていくことがあり、炎症や癒着の結果、月経の最中だけではなく、月経がないときも下腹部痛や腰痛、性交時痛が生じるなど、日常生活に支障を来すことがあります。
さらに卵巣機能の低下や受精障害、受精卵の着床障害などが起きて不妊症を引き起こすことがあります。
子宮内膜症の患者さんは月経のある年代の女性の10人に1人といわれており、増加傾向にあります。
子宮内膜症の診断
問診、内診、検査などで診断 担当医に相談を
子宮内膜症の診断のためには、まず月経痛やその他の痛みの有無や程度を問診で確認し、内診によって診察時の痛み、子宮周囲の組織の硬さ、卵巣が腫れていないかなどを確かめます。
さらに超音波検査で子宮や卵巣の形や大きさを確認し、必要な場合にはMRI検査や血液検査も実施します。
子宮の周囲の癒着やひきつれ、色調の変化などは手術時に詳しく確認される場合があります。さらに病変の
一部を切除し顕微鏡で観察すると、子宮内膜のような組織や出血成分が認められ、子宮内膜症であることがはっきりすることもあります。
子宮内膜症は、画像検査だけでの診断が難しく、内診を含めた診察の結果がとても重要です。ただ、性交渉の経験のない方には腟からの診察を控えるなど、負担の少ない診察を選択できる場合があります。遠慮せずに担当医に相談してみてください。
子宮内膜症の治療
症状や程度、妊娠・出産の希望の有無で変わる治療法
子宮内膜症に対しては鎮痛剤以外にもさまざまな薬物や手術による治療があります(図2)。
年齢、症状、妊娠・出産を希望するかどうかなどを考慮して、治療法を検討していきます。
妊娠・出産を希望している場合は排卵を抑える薬物による治療ができないため、手術や不妊治療が検討されることがあります。また、卵巣チョコレート嚢胞が大きい場合には手術が選択されることが多いです。
妊娠・出産を希望していない場合には、低用量ピル(卵胞ホルモンと黄体ホルモンの合剤)や、ジエノゲスト(黄体ホルモン製剤)などのホルモン療法により卵巣から出るホルモンの変動を抑えることで、痛みの改善や子宮内膜症の進行の予防が期待できます。
その他には、ホルモン剤投与により閉経に近い状態にして強力に症状を抑える偽閉経療法や、レボノルゲストレル放出子宮内システム(子宮内に挿入して徐々に薬剤を放出させる器具)もあります。
手術では、卵巣チョコレート嚢胞の摘出、癒着の剝離、病巣の焼灼などが行われます。妊娠を今後希望しない場合は、子宮・卵管と片側または両側の卵巣が摘出されることもあります。
治療法のメリット・デメリットを理解して選択を
治療法の選択は、患者さんそれぞれの症状や子宮内膜症の程度、妊娠・出産の希望の有無、年齢や生活スタイルなどにより異なってくるため、正解は一つではありません。それぞれの治療法のメリット・デメリットをよく理解して、患者さんと医療従事者が十分に話し合って決めていく必要があります。
MEMO
子宮内膜症を発症するリスクが高い月経困難症
中高生の女子の約7割が月経痛の悩みを持っており、月経痛が強くなるほど学業やスポーツへの影響が大きくなっていることが報告されています。
また、月経困難症のある女性は、将来子宮内膜症を発症するリスクが高いことが分かっています。症状があれば積極的に受診し、治療を受けることをお勧めします。
痛みを我慢する必要はありません。痛くなる前に、鎮痛剤を使用しましょう。日常生活に支障を来す痛みがあるときには子宮内膜症を発症している可能性もありますので、産婦人科を受診してください。
おわりに
適切な治療法を一緒に考えましょう
子宮内膜症は強い痛みがあり、不妊症の原因になることもある女性特有の病気です。ライフステージに合わせて適切な治療法を選択しながら、長く付き合っていかなければなりません。
まずは気軽に産婦人科医療機関を受診してみてください。一緒に治療法を考え試していく中で、皆さんの痛みや不安が軽くなることを願っています。
執筆者
熊本大学大学院生命科学研究部 産科婦人科学講座 地域医療連携ネットワーク実践学 寄附講座 特任助教
楠木 槙さん
・日本産科婦人科学会専門医
次回予告
12/22号では、「不妊治療」 についてお伝えします