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赤いリボンと尊厳【医療従事者によるリレーエッセー】

赤いリボンと尊厳【医療従事者によるリレーエッセー】

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vol.119

私は「柔道整復師」という国家資格を取得して、軽い捻挫や打撲などを保険診療できる整骨院を営んでいます。
熊本地震で2院のうち1院が損壊したのを機に、私が患者さんとより親しく関われるようにしたいと1院にし、完全予約制にしました。

そんな院ですから、患者さんがポツリポツリと本音で話されることをお聞きすることがあります。

ある日、ご高齢の患者さんが、「中川さん、人はね、尊厳が大切よ」と言われました。話を聞くと、その患者さんが入所希望の施設を見学に行ったところ、食堂に高校の同級生がいて、うつむいたまま寂しそうにしていたそうです。思い切って話しかけたら、同級生だと分かりパッと笑みが浮かび、昔の明るい元気な姿が垣間見えたそうです。

そのときに同級生と話し、感じたことから「尊厳が大切」と伝えてくれたのです。

「尊厳」という言葉で思い浮かぶのは、父が70歳を過ぎた頃のこと。トイレの手洗い用の蛇口の閉め忘れが増えてきました。トイレでジャージャー音がしているけれど、耳が遠い父にはその音が聞こえません。

蛇口の前に注意を促す紙を貼ろうかとも思いましたが、「家中に貼り紙されるのはなんだかねぇ」と高齢の患者さんが話すのを聞いていたこともあり、どうしたものかと考えました。そしてピンと来て、蛇口に赤いリボンを結んでみたのです。

閉め忘れはやみました。貼り紙をしなくて済んだのです。父の自尊心を守れたように思えました。

さくらんぼ整骨院院長柔道整復師 中川 慈さん
さくらんぼ整骨院院長柔道整復師 中川 慈さん

記事内の情報は掲載当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。

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この記事を書いた人

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