【463号】カルチャールーム – 円盤で時間旅行 嶋田宣明
物語の主人公になれる… 平成が再評価した昭和の歌
平成という時代にもいよいよ別れを告げようとするこの時期。改めて振り返ってみると、平成は昭和を再認識する時代でもあった気がします。それは音楽に限っても、平成に昭和の曲をカバーしたものが、いかに多かったかという点でも感じるのです。
さて、平成と昭和の音楽の違いは何なのか? あくまで私見ですが、その一つは、例えば荒井由実の時代のユーミンの歌詞に代表される普遍性。その歌が自分のために歌われているような錯覚を覚え、多くの人が物語の主人公になれる…。そんな歌が多かったのではないでしょうか。では平成はどうでしょう。リズムに重きを置く曲が増え、歌詞は個人の想いや夢を表現したものが多いように感じます。ある層にはぴったりとハマるが、それ以外の層には届きにくく、歌う側の個性が中心となった世界が多いのではないでしょうか。
そんな中、平成の世に次々と生まれてきたのが昭和歌謡のカバー。古くは1950年代の曲から、80年代のヒット曲まで、あらゆる昭和の年代の曲が、現代の歌手によってよみがえっているのです。今回ご紹介するのは、2006年10月に発売された「BEGIN」の『東京』。1974年に「マイ・ペース」によって大ヒットした遠距離恋愛の名曲を、切なさはそのままに比嘉栄昇の甘く響く声でカバーされました。地方の若者からすると、東京は今より遠く、憧れの街であった時代の歌が、平成の世でも歌われたのです。平成から新元号へ、時代を超える名曲は、これからも歌い継がれていくのでしょうね。
※今回紹介したレコードは3月19日(火)放送のFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(16時~18時55分)で放送する予定です。
しまだ・のぶあき/1951年生まれ、熊本市出身。東京のデザイン会社でコピーライターとして社会人デビュー。帰熊後、広告代理店でコピーライター&プランナーとして活躍。現在はFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(火曜・16時~18時55分)、RKKラジオ「昭和歌謡大作戦」(日曜・20時~20時55分)の選曲家、パーソナリティーを務め、幅広い年齢層に昭和の曲を届けている。