気持ちを伝える本当の声【村上美香のヒトコトつれづれ】
「自分が代表を務めるダブルケア熊本のことを、ちゃんと伝えられる人になりたいです」。ある日、私が開く話し方レッスンの自己紹介で、Aさんは小さな声でそう言いました。
ダブルケア熊本とは、子育てと介護が重なる人たちの悩みに寄り添い、生きやすくなるための情報発信をしている団体。Aさんも子どもを抱えながら、親の突然の病気で介護をすることになり、苦しい思いをしたことからこの団体を設立しました。そんなダブルケアをたくさんの人に知ってほしいというAさん。でも控えめな彼女は、声を大きく出すタイプではなく、どこかか弱そうに見えるのです。心の中の熱い思いと表現にズレがあるといった印象でした。
そんな彼女が先日、ダブルケアの啓発ショーの司会をすることになり、再びレッスンを受けにこられました。本番を想定した練習では、声がやはり小さくて高く、どこか借りてきた声のように感じました。聞くと「人前では、きれいな声で話さなければ」という思い込みがある様子。そこで、なぜこのショーをやるのか、ダブルケア熊本の代表として、お客さまをどうお迎えしたいのかを話し合いました。
それを懸命に私に説明してくれた時、彼女の本当の声が出てきたのです。大人の女性の落ち着いた声でした。「そう ! その声を出しましょう ! 」と、声のトーンとスピードを変えて再び猛練習。やがて説得力のある、でも温かい彼女の本当の声に変わりました。Aさんの声に覚悟を感じ、絶対にうまくいくと確信しました。