現地記者リポート!台湾の有名なお土産店のブランドヒストリー【台湾ってこんなトコVol.14】
この記事を書いたのは
NNA台湾記者・張成慧
NNA台湾編集部に勤める30代の台湾人女性。大学時代に交換留学生として日本に約1年間滞在して以来、日本が恋しく年に2回のペースで各地を訪ねています。旅やアート作品などを通じて、自身の感性が磨かれるものごとを見つけるのが好き。
台湾の有名なお土産店のブランドヒストリーに迫る
秋を迎え、観光しやすい季節が台湾にやってきました。台北の街では日本からの観光客をたびたび見かけますが、お土産を選ぶのも旅の楽しみの一つですよね。
台湾土産の定番、パイナップルケーキを看板商品とする「微熱山丘(サニーヒルズ)」と手作りせっけんで知られる「阿原(ユアン)」。
いずれも2000年代に台湾で生まれたブランドで、台湾の消費者だけでなく、台湾を訪れた観光客からも人気を集めています。
日本に進出した点も共通しています。どのような点が消費者に受け入れられているのでしょうか。
今回は、すぱいすの読者の皆さまに、この二つのブランドのストーリーを紹介したいと思います。
看板商品はパイナップルケーキ!「微熱山丘(サニーヒルズ)」
秋らしい気持ちの良い天気となった10月中旬、台北市にあるサニーヒルズの民生公園店で、ブランドコミュニケーション部門の担当者にお話をうかがいました。
「おはようございます、お茶はいかがですか?」
お店のドアが開くと、店員が来店客に尋ねる声が聞こえました。
サニーヒルズは2009年、台湾中部の南投県で生まれました。パイナップルケーキの宅配から事業を始め、有名になりました。翌年には台北市の民生社区に初の店舗を構えました。
現在、台湾ではこの民生公園店のほか、南投県の三合院店、高雄市の駁二特区店の三つの「体験店」を運営。体験店とは、ブランドの精神を消費者に伝える場所です。
台湾式の「おもてなし」を体現したお店
来店客の評判を呼んでいるのが、お茶のサービスです。商品を購入するかどうかにかかわらず、全ての来店客はいすに座って、「一杯のお茶と、一つのパイナップルケーキ」のおもてなしを受けることができるのです。
担当者によると、実店舗を開設する際、サニーヒルズは「現地の特色に溶け込むこと」を理念としていて、台湾に三つある店の雰囲気はそれぞれ異なるそう。
民生公園店は台北市の民生社区(社区はコミュニティーや地域の単位)にあります。民生社区は台北の中心部にある「桃源郷」とも呼ばれ、緑豊かで、落ち着いたエリア。たくさんの個性的な店が営業しています。
一方、南投県の店は創業者の実家である三合院の隣にあり、赤れんがの壁が素朴さと親しみやすさを感じさせます。
港町の高雄にある店は船をデザインに取り入れ、現地にとても溶け込んでいると言えそうですね!
サニーヒルズの店のデザインには共通した要素もあります。それは「赤土の壁」と「長テーブル」「自転車」「フラワーアレンジメント」です。
担当者は、赤土の壁はサニーヒルズのブランドを認識する要素の一つだと言います。なぜなら、サニーヒルズのパイナップルケーキの原料となっている南投産のパイナップルは赤土の畑で栽培されているからです。
そして長テーブルは、台湾の田舎の家庭でお茶を飲み、おしゃべりを楽しむ、そんな雰囲気を醸し出してくれます。
自転車は南投の店の近くを走る県道139号線が人気のサイクリングコースであることに由来し、フラワーアレンジメントは店にくつろいだ雰囲気を生み出してくれます。
体験店では英語、日本語、韓国語によるサービスを行っていて、外国人も安心して利用できます。
お茶のサービスの起源
サニーヒルズのブランドが誕生した当初、店舗はなく、宅配という形で商品を販売していました。南投県の三合院を拠点とし、創業者の親族や友人と一緒にパイナップルケーキを生産していました。
当時は今ほど宅配という形での販売が盛んではなく、注文から4~5日たって消費者の元に商品が届く、というのが普通でした。
こうしたことから、一部の消費者が直接、三合院に商品を買いに来るようになりました。創業者の家族がこうした来客をお茶とパイナップルケーキでもてなしたのが、サービスの起源になっています。
看板商品のパイナップルケーキ
サニーヒルズの創業者、許銘仁氏はかつて上場ハイテク企業の経営者でした。
農業に従事していた弟がスイーツのビジネスを始めようと考えていたことから、許氏は自身のリソースや人脈でサポートし、「サニーヒルズ」を創設しました。
興味深いのは、彼らがブランドを立ち上げた後ではじめてどのような商品を販売するかを考えたということです。
話し合う中で、彼らは実家の三合院の周辺にパイナップル畑があることを思い出し、パイナップルケーキを作ろうと考えるようになりました。
当時、販売されていた多くのパイナップルケーキは、パイナップルの酸味と繊維を抑えるため、大量のトウガンのあんを混ぜ、甘みが強いものが多かったそうです。
こうしたことから、彼らは最終的に南投県で生産されたパイナップルで「本物のパイナップルケーキ」を作ることを決めました。
創業者の叔父は菓子職人をしていて、パイナップルケーキの開発に当たり、2009年にパイナップルケーキの販売を始めました。
サニーヒルズのパイナップルケーキは、酸味があり、繊維が比較的太い「開英種」と呼ばれるパイナップルを主な原料に使用しています。
この品種は、夏は甘く、冬は酸味があるという特徴があり、同じ味を保つため、「金鑽」という名前のパイナップルを少量加えているそうです。
パイナップルケーキとともに日本の激戦区へ
2013年12月、サニーヒルズは東京に南青山店を開設しました。シンガポールと上海に続いて、三つ目の海外店舗となります。
サニーヒルズの担当者は、南青山を出店場所に選んだ理由を「(現地が)スイーツの激戦区として広く知られていたため」と振り返ります。
「スイーツブランドとして、そうした場所で成功できれば、(消費者から)認められたことになる」と説明しました。
南青山店の設計は、日本の著名建築家、隈研吾氏のチームが担当。「森のような姿をした建物の中で、ご近所とあいさつを交わし、遠来の友人たちと語り合えればと考えました」。サニーヒルズのオフィシャルサイトでは、南青山店の設計の理念をこう紹介しています。
担当者によると、サニーヒルズの日本の運営チームは商品の「日常化」を進め、「りんごケーキ」を企画。近年販売を始めた2個入りの商品も日本のチームが考案したそうです。
日本のチームが企画したりんごケーキは2014年に日本で販売を開始。翌年には台湾の店舗でも販売を始め、サニーヒルズにとって二つ目のロングセラー商品となりました。
日本の帝国ホテルのシェフと共同開発したりんごケーキは、青森のリンゴ「紅玉」を原料に使用しています。担当者は、紅玉とパイナップルには、濃厚な味と酸味がある点が似ていると話します。
「バナナワッフルケーキ」は2022年に売り出した三つ目のロングセラー商品です。
使用しているのは、バナナの一種「山蕉」です。濃厚な香りと酸味がある味、弾力がある食感が特徴です。
担当者によると、この商品は開発に5~6年を費やしたそう。酸化すると黒く変色しやすいという山蕉の特性を解決するためで、冷凍乾燥技術を用いるなどしています。
新ブランド「Smille微笑蜜楽」
2023年12月、サニーヒルズは台湾で新ブランド「Smille微笑蜜楽」を打ち出しました。注文を受けて作る「蜜楽酥」(果物のミルフィーユ)を提供し、これまでとは違った形で果物の魅力を伝えています。
現在は台北市の松山文創園区と高雄に店があります。11月には台中に店をオープンするほか、来年には多くの店舗を開設する計画があるそうです。
蜜楽酥には、パイナップル・カスタード、バナナ・グアバ、紅玉、レモン・スモークチキンなどの味があります。
実際に台北のお店を訪れ、蜜楽酥を味わってみました。食感はさくさくとしていて、食べやすい大きさでした。異なる具材を挟んでいて、さまざまな味を楽しむことができました。
個人的に特に印象に残ったのが、レモンとスモークチキンの蜜楽酥です。
現在販売している中で唯一、塩味の商品で、小さく切ったスモークチキンに、台湾のレモンで作ったクーリ( ゼリーのような食感)とクリームソースを組み合わせ、黒コショウをまぶしています。爽やかな味とコショウのピリッとした辛さがとても新鮮でした!
南投に拠点開設へ
サニーヒルズはブランド発祥の地、南投に生産ラインやオフィスを集めた拠点の開設を計画しています。
担当者によると、この拠点は「ブランドの家」とする方針。将来的には展覧会や新しく開発した商品の販売を行うことなども計画しています。2026年夏の開設を予定しています。
台湾発ナチュラルコスメ「阿原(ユアン)」
2005年に誕生したユアンは来年、ブランド設立から20年を迎えます。
永康街にあるユアンのお店に入ると、壁いっぱいにせっけんが並んでいました。
ユアンのせっけんには19種類の香りがあります。
ブランド創設以来、売り上げランキング1位の「よもぎのせっけん」のほか、カンゾウなどの植物を使った商品、ランタナやヒノキなど香りに特徴のある商品、レモンなどを使った商品もあります。自身の肌質や匂いの好みに応じて商品を選ぶことができます。
手づくりせっけんで事業を興したユアンは、台湾北部の陽明山国家公園に農場を構え、商品に使用する植物を栽培してきただけでなく、新商品の開発も行ってきました。
現在はせっけん以外にも、髪や顔、体などのケアに用いる商品も手がけています。
ユアンは、ロゴやパッケージなどに漢字を用いることで、ブランドが「東方の美学」を重視していることを体現しています。
ブランドの広報担当、林さんは「共生共好」がユアンのブランド理念だと強調します。
創業者の江栄原氏は当初、台湾のさまざまな植物で手作りのせっけんを試し、自身の肌の問題を解決した後は近所の人にも利用を薦め、ユアンのブランドを確立していきました。
日本に4店舗
ユアンは2009年、販売代理店取引の形で日本市場にも進出しました。
現在は千葉市、東京都、神戸市、北九州市で四つの店舗が営業。日本営業部推進部長の邱さんによると、今後、各地でポップアップショップを積極的に展開していく方針です。
日本の店では無料で台湾式マッサージの体験サービスを提供することで、消費者にユアンの商品を体験してもらっているそう。今年は日本市場では「ユアンのある生活」を合言葉に、商品をアピールしています。
「ヨモギ」と「ゲットウ」は定番の香り
ユアンの商品に使用している20種類を超える植物のうち、ヨモギとゲットウは特に多くの商品に使われています。
ヨモギとゲットウは台湾人によく知られた植物です。
「鬼月」と呼ばれる旧暦7月は、家々が玄関にヨモギをかけたり、体を洗うのに使ったりします。ヨモギは厄よけや身を清める効力があると伝えられています。
一方、ゲットウの葉は端午の節句で食べるちまきを包むために使われています。
邱さんによると、夏の期間が長く、湿気が多い台湾では、清潔感があり、匂いが爽やかなヨモギを使った商品が人気だそう。一方、乾燥している日本では、保湿効果があるというゲットウを使った商品の売れ行きが良いそうです。
台湾、日本の両市場ともに、主な消費者は35~50歳くらいの女性。ただ、商品の匂いがナチュラルなため、女性が購入し、家族で使うことも多いそうです。
来年20歳を迎えるユアン。新たなプロジェクトの準備に着手しているそうです。
お店に入って台湾の商品や風情を感じてみて
以上が台湾発のお土産ブランドのストーリーでした。これまで購入したことがある方も、ない方も、今度お店を通りかかったら、お店に入って台湾の商品や風情を感じてみるのも良いかもしれませんね。