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一歩引いて若者を見守る 「父のような存在」も大切【となりのあの子Web版 Vol.29】

親を頼れない子ども・若者を支援する団体「NPO法人トナリビト」代表の山下祈恵さんが、子どもたちと過ごす日々の出来事をつづります。

若者と関わる中で、「お母さんのような存在」という言葉はよく耳にしますが、不思議と「お父さんのような存在」という言葉はあまり聞かない気がします。

「お母さんの無条件の愛」みたいな母性愛が大切にされる一方、「お父さん=父性」についてはあまり意識する機会が少ないのかもしれません。

しかし若者たちと関わる中で、実はこの「母性」と「父性」のバランスというのはとても大事です。

これは生物学的な性別でいう男か女か、ということではありません。母性的、または父性的な関わり方、という意味です。

父性の定義はいろいろありますが、無条件の愛が母性であるなら、私は父性的な関わりとは、信じて見守る忍耐だと思っています。信じて手放し、見守って、失敗したときには軌道修正して導いてあげることです。

親から十分な愛情を受け取れなかった子に向き合うとき、最初に私たちが発揮するのはやはり、ありのままを受け入れる母性的な関わりだと思います。母性の関わりがしっかりできていない子に父性をぶつけても、基本的な信頼関係性が築けないからです。

しかし、母性のステージがしっかり確立された後、若者たちが大人になっていくためには父性の関わりが不可欠。父性のステージは「信頼」がキーです。

未熟さもひっくるめて一人の人間として信じ、一歩引いて見守る。すべて先回りをして道の小石を除いていくのではなく、石につまずいても立ち上がるまでじっと忍耐して見守る、そんな関わり方です。

親を頼れない若者たちと出会う中で感じるのは、この「父性的な関わり」をしてくれる大人の存在が極端に少ないということです。

親を頼れない若者たちの中には、ずっと「ニーズがある子」とか、「できない子」とか、「かわいそうな子」として、周りがお世話をし続けてきた…というケースが度々あります。問題を起こさないように、つまずかないように、失敗しないように、と全部大人が先回りして手を出し続けた結果、本人を信じて任せる、という選択肢を忘れてしまうのかもしれません。

そういう境遇の若者に何かを任せて見守ると、決まって最初はみんな不安そうにします。「え、どうすればいいの」「本当にやっていいの」と、戸惑ってしまうようです。

いろんな言い訳を先に先にと繰り出して、うまく行かず失敗したときの緩衝材にしようとしたりすることもあります。

でも本当に信じて任せていると、だんだん顔つきが変わってくるのです。「あ、自分で選んでいいんだ」「やって失敗しても、またトライしていいんだ」-。本当にそう思えてくると、若者たちは一気に大人びた顔つきになっていきます。

確かに私たちにつながる若者たちの中には、生い立ちの環境の中で圧倒的に母性的な関わりが足りていない子もいます。ときには、「今はつべこべいわず、ジャブジャブ母性を浴びるときだね!」という子もいます。

しかし、とはいっても若者たちは、いつかは一人の大人として自立して生きていかなければいけません。

母性的な愛で彼らを受け入れることはとてもすてきなことです。ですが、同時に父性的な愛で若者たちを一人の人間として認め、失敗することも含めて見守る―これは本当の意味で彼らをリスペクトすることです。

若者の持つ力を信じて一歩引く、そんな「父性」も大事にしていきたいです。


PROFILE
山下 祈恵

NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。公式サイトはhttps://www.tonaribito.net/

記事内の情報は掲載当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。

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この記事を書いた人

NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。

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