「伝える基本」を教えてくれた先生【村上美香のヒトコトつれづれ】
「言葉を使って伝える」仕事をしている私が、大きな影響を受けたのは小学校の担任Y先生。美しい文字を書く男性の先生で、背広の胸ポケットにはいつも奇麗なスカーフ。おしゃれな方でした。一番好きだったのは国語の授業。Y先生の朗読が聞けるからです。先生が読むと文章が優しく聞こえます。その理由は「が」という助詞の発音。鼻にかかったように読んでおられ、それは鼻濁音だということを教わりました。
小学6年生の時、新入生の歓迎式で私があいさつをすることになりました。「分からないことがあったら何でも協力します」と話す練習をしていると、Y先生から「人前で話すときは聞いている人を想像してみて。1年生に『協力』という言葉は分かるかな」と言われました。そこで「協力」を「お手伝い」に変えて発表すると、1年生はうれしそうにうなずいてくれました。
そんなY先生と、約40年ぶりに会う機会がありました。知り合いの方から「おしゃれなおじいさんが、美香さんの小学校の担任だったと話していた」と聞いたのです。すぐにY先生のことだと分かり、久しぶりに再会することに。ロマンスグレーになった先生は相変わらずすてきで、「私も中年になってしまいました」と話すと、「今が一番美しい年齢なのですよ」と言われました。やっぱりY先生だと感動しました。あれから4年。先日、Y先生が亡くなったと聞きました。あの時再会できて本当に良かった。今、「伝える基本」に立ち返り、先生に学んだことを思い出しています。